インド修行2期 28話
「ちゃんと眠れたか?」チョーさんからのメールで目が覚めた。
昨夜はぐっすりと眠ることができた、、。ドワルカのホテル、湿気と騒音と生乾きの臭いは凄いけれど、それが嫌だったのか、ニムラナの幽霊もここには来れなかったようだ。
いよいよ今日の夜便で日本に帰国する。快適な日本に帰れる嬉しさと、チョーさんと離れる寂しさが、おしくら饅頭している。
なにしろ、この1ヶ月間、ほぼ毎日欠かさずチョーさんと会っていた。レッスンを受け、一緒にライブをし、コンサートのお付きをし、コルカタにも行き、、夜ご飯を一緒に食べ、、マッサージをしたり、、とにかく、沢山の時間をともに過ごした。たぶん、奥さんよりも誰よりもチョーさんと接している時間は長かったと思う。
今回チョーさんは、沢山の時間とエネルギーを俺のために使ってくれた。ここまでしてくれる師匠は他にはいないだろう。
レッスンやライブのことだけに留まらず、ホテルの手配、さらには「ご飯はちゃんと食べれているか?」「部屋で練習しても苦情は来ないか?」「夜はちゃんと眠れているか?寂しかったらいつでも電話して来いよ。」など、めちゃくちゃ忙しい人なのに、頭をフル回転して気遣ってくれる。あまりの回転の速さに、チョーさんの頭がボーリングの球に見えたこともあった。本当に何から何までお世話になった。
今回、タブラを新しくオーダーし、昨日受け取った。最高中の最高のタブラ。俺が使うのは痴がましいほどのタブラ。日本のネットなどで買うことができる「最高級タブラ」とは全く別物の、巨匠クラスでしか使うことを許されないような超一級品のタブラ。
これも全て、チョーさんがタブラ工房に連絡し、指示、調整をしてくれた。
実際、外国人がこんな凄いタブラを手に入れる事は不可能だ。インド人タブラ奏者でも、余程の巨匠でない限り、手に入れる事は出来ない。
俺は、たった一言こうお願いしただけ、
「チョーさんが使っているような低い音のするタブラが欲しいです。色は黒く塗って欲しいです。」
そんなワガママなお願いに「分かった。任せておけ!」とひと言だけ言うと、早速タブラ工房に連絡し、細密な注文をしてくれた。
チョーさんが贔屓にしているタブラ工房はデリーでもトップの超人気店。デリーで見たコンサートでも、ほとんどの巨匠がここのタブラを使っていた。
それほどの超人気店、その中でも最高のタブラを作れる職人さんは数人しかいない。しかも、1つのタブラを作るためにはたくさんの工程と時間が必要。さらに、出来の良し悪しは、完成してみないとハッキリわからない。そして、工房には毎日数え切れないほどのオーダーが入ってくる。
必然的に、巨匠には出来の良いタブラが行き、そうでない人には、身分相応のタブラが届く。そんなパツパツの工房で、タブラを使いこなす技術も乏しい外国人が、最高のタブラを手に入れることがどうしてできようか。
それだけを考えても、チョーさんが、俺のタブラを手に入れるために注いでくれた労力は軽く俺の想像を超えるだろう。たぶん、ほぼ毎日、進捗状況の確認の連絡を入れ、納期の確認をし、オーダーの再確認をしてくれたはずだ。
なにを隠そうこのタブラ
「ボディをコルカタの別工房で特注で製作 → 完成後デリーに輸送 → デリーで黒く塗装 → 打面の製作 → 仕上げ・調整」
という、インドではほぼ不可能と思われる超特殊な工程を踏んでいるのだ。
それが、納期を守って、さらに一切の妥協なく、最高の品質で、手元に届いた感動と有難さ!!チョーさんにはいくら感謝してもしたりない!!そして、ギリギリのスケジュールの中、最高の状態に仕上げてくれた「Gullu」さん!!ありがとうございます!!
このタブラに見合う技術になるのには何十年もかかると思うけど、気持ちだけは応えられるように練習頑張ります!!
宮殿ホテルでお化けと悪夢に魘された吉日(昨日)の朝、、、「細木数子をもう信じない!!」と誓った、その日の夜に、最高のタブラに出会ってしまった。
「細木数子はやはり魔女だ!!」と、彼女の暴露本「魔女の履歴書」を手に取りながら、思いました。
これから、荷造りして、チョーさんに最後の挨拶に行き、いよいよ日本に帰ります!!